人気ブログランキング | 話題のタグを見る

新しい哲学を求めて


管理人:宮内義富、札幌在住。主に本や雑誌、ジャーナリズムを通して、人間社会のあるべき姿を考えていきたいと思います。
by saiseidoh

遥か遠くの石垣島

 陸上自衛隊の石垣駐屯地が開設1年を迎える、という。日本の中央から見れば、はるか遠く、沖縄本島からもさらに遠い。防衛省が国土防衛の「南西シフト」最後のピースとしての位置づけ、とか。防衛省サイドから見れば当然の急速な軍事拠点化ということだろうが…。防衛予算の急拡大により、この島にも次々と「敵基地攻撃能力」が整備されていくということのようだ。

 と、書いてきて、国や防衛省サイドの思惑は仕方がないように見える。「中国の脅威から日本を守るため」国境近くを固めるという大義名分。その伝でいけば、沖縄本島も同列のはずだろう。沖縄本島はおろか、国境近くのたくさんの離島も軍事拠点とならざるを得ない。

 与党、野党という政治姿勢やイデオロギー等々を超えて危惧せざるを得ない時代の流れだ。

 同時に思うのは、今感心して読んでいる新川明「新南島風土記」だ。一新聞記者として、若き日に沖縄本島からも離れて点在する石垣島、西表島、波照間島…等々を船を駆りながら訪ね歩いた現代風土記様ルポ。そこには中韓や東アジア、日本の狭間で歩み続けた苦難の歴史とそれらを受けての豊かな民謡や文化、習俗と美しく厳しい自然が深く深く刻まれている。

 筆者によるあとがきでは、こんな文章もある。「…『復帰』後は、予想されたとおり沖縄のすみずみに至るまで日本(ヤマト)に侵食されて、目に見えるものも見えないものも急速な崩壊へと向かいつつあるのが現実である…」。20年ほど前に筆者が書いた。それがどうだろう。最近の様相は、観光振興などに惑わされ、地域の暮らしは崩壊の一途を辿っているようにしか見えない。しかし、地元に住み暮らす人たちは崩壊、などとは絶対、口にはすまい。自分たちの日々の生活を継続していかなければならないのだから。

 改めて、私は身近な存在として敬愛と尊敬の対象である澤田展人さんが沖縄と北海道を舞台とした小説「ンブフルの丘」を書いたことを思う。そして、併せて数年前に初めて訪れた沖縄の気候と風土の煌びやかさと温もりに満ちた人たちも。
 新川明が事務局長を務めまとめた「沖縄大百科事典」(沖縄タイムス社)も手元に置き常に参照したい誘惑に駆られる。


 

# by saiseidoh | 2024-03-17 20:56 | その他 | Comments(0)

日々の新聞・雑誌

 毎日読む新聞や定期的に届く購読誌に目を通していると、心魅かれる文章やテーマなどの記事やエッセー等々に必ず、と言ってよいほど日々出会う。
日々の新聞・雑誌_d0289139_18363088.jpeg
 『図書』(2024年3月号)の巻頭2ページ目以降に載っていた、池澤夏樹氏の「沖縄の大江健三郎」。池澤氏はご存知のように、あの小説家、詩人福永武彦の子息ということになるが、帯広で生まれ、その後両親は離婚、思春期になるまで父親が福永武彦であることを知らなかったこと、長じては小説や詩を書くようになり、ギリシャ、フランス、沖縄、札幌、そして現在住む長野県安曇野…と国内外で住まいを変えつつ執筆や社会的活動をするなど、私も関心が高い方。

 「沖縄の大江健三郎」は大江の死去をきっかけに書いた文章だが、古今東西、社会的な活動をしつつ、「国の中心に向かった」作家らと「辺境に向かう」作家たちがいた・いる、という。沖縄にこだわった大江健三郎はもちろん辺境派だし、同じく石牟礼道子や堀田善衛、加藤周一ら(沖縄のジャーナリスト新川昭の名前も池澤は挙げる)の名を並べる。今読んでいる新川明「新南島風土記」の底にも流れるが、当事者資格はなくても、意志と努力をもって発言をし、関わり続けることは、その人物の誠実さを左右する。

 「地方だけ『がんばれ』はおかしい」
 朝日新聞土曜版be on Saturdayに紹介されている「石積み学校」代表理事の真田純子さん。石積みの技を地域に普及・定着させる取り組みを通じて「棚田が残る農政」や、「価値観を変えること」を全国的に進めている。現在の地方創生は一見、農村のためになる政策にみえるが、逆に農村を苦しめている。地方創生の勝ち組を作るのではなく、地域資源や文化の保全に配慮した経済活動、持続可能な政策基盤を作るべき、と記事では主張している。
 形や上辺だけをなぞっているような現在の日本では実現が難しい課題だろう。





 

 


# by saiseidoh | 2024-03-03 18:37 | ジャーナリズム | Comments(0)

読書の質・本の質

読書の質・本の質_d0289139_07131020.jpeg
 新川明「新南島風土記」(岩波現代文庫)などを読むと、良い意味で「本の質」や「読書の質」などということを痛感する。

 一方、逆の意味で今同時に読んでいる長谷川卓也「いとしのブルーフィルム」(青弓社)にはがっかりした。要するに、内容が薄い、資料などとして使うにも使えない、面白くない、のである。この本を読んでわかったのだが、かつて読んだ「ぶるぅふぃるむ物語」もペンネームこそ違え、同じ著者が書いたものだった。

 「新南島風土記」はこれほどに地域の歴史、風土記的なものを扱い、深く、心に届くものがあるのだろうか、と改めて著者である新川明の感性や表現力に感じ入る。古さなど微塵も感じられない。沖縄旅行から帰り、しばらく積読状態だった「沖縄県の歴史」(山川出版社)のペ-ジもめくり出し、こちらの内容の充実ぶりをも再認識させられた。



# by saiseidoh | 2024-02-23 07:37 | その他 | Comments(0)

読書日記「ブルーフィルムの哲学」など

読書日記「ブルーフィルムの哲学」など_d0289139_10481044.jpeg
 消え去りつつある社会風俗や性風俗に強い関心があり、新刊「ブルーフィルムの哲学」(NHK出版、吉川孝著)を読み終えた。ブルーフィルムに関して詳細な年代記的な記載には欠けるが、「それは、現れるに値する」との著者の姿勢には敬意を表したいと思った。当時は(あるいは今も)違法ということかもしれないが、記録や記憶に残しておくべき、大切な活動、文化的な営為だったろうと思う。

 その余勢を買って、長谷川卓也「いとしのブルーフィルム」(青弓社)も購入。

 分野は異なるが、新川明「新南島風土記」(岩波現代文庫)も素晴らしい。最近少しずつ読んでいるが、大江健三郎との交流、交友があった新川明の文章がとてもよい。かつて日本各地に暮らし記録に残した人びとの苦闘や努力を改めて痛感する。ネットなどでは味わえない種類の感動、共感だ。

# by saiseidoh | 2024-02-17 11:08 | その他 | Comments(0)

井上荒野「あちらにいる鬼」

井上荒野「あちらにいる鬼」_d0289139_12054706.jpeg
 年末から年始にかけて何冊かの本を読んだ。一年365日常に何らかの本を読むのが生活のリズムになっている。井上荒野の本は以前から関心があったが、特にこの本「あちらにいる鬼」(朝日文庫)。いろいろなきっかけがあり、ようやく読む機会を得たという訳だ。

 ご承知のように井上荒野は故井上光晴の娘さん。井上光晴と言えば、私たちの世代からすれば(私個人の間違った認識かも知れぬが)、『朝日ジャーナル』(の思想)に近いのイメージが強い。革命的、現状への叛逆、思想性の強さ…(こんなイメージも勝手な解釈かも知れない)。井上光晴の本も当時、ジャーナルで読んでいたようにも思うが、それほど鮮明な記憶としては残っていない。

 長い人生経験等を経て、改めて読んでみたい作家ではある。そんな井上光晴が女性関係ではかなり積極的な人だったらしい。若い頃から多情な生活を送り、井上荒野の母(つまり光晴の妻)と知り合い、結婚後も不倫のような行動を繰り返す。特に知られたのが、当時売れっ子作家だった瀬戸内晴美(その後仏門に入り瀬戸内寂聴)や各地に井上が起こした『文学伝習所』の生徒らとの不倫?密会?である。

 市立函館文学館にて
 昨年11月久しぶりに函館に一泊した折には井上光晴のコーナーもある市立函館文学館にも慌ただしく寄ってみた。きっとこれまで触れたような経緯が意識の中にはあったからだろう。改めて「井上光晴」という作家、人間に興味を持ち、今に至っている。そんな経緯もあるので、今後、井上光晴が目指していた小説世界や文学伝習所に関わる活動などにも触れてみたい。

 「あちらにいる鬼」はただ単に有名作家同士の不倫や後に作家となる、娘、井上荒野から見た男女関係、家族関係、人間模様などを扱っている訳ではないと思う。これらを通して、人間が持っているどうしようも無い性(さが)、哀しさ、微妙な感情の中でもそれぞれの人間を理解しようという努力、共に歩みを進めていこうという人間たち。

 ここには最近の軽々しく扱われる浮気や不倫、Twitter(X)での喧しい、本来人間が持っているはずの厳粛さからほど遠い世界とは一線を画した文学表現がある。
 


# by saiseidoh | 2024-01-17 11:08 | 文学・小説 | Comments(0)

外部リンク

以前の記事

2024年 03月
2024年 02月
2024年 01月
2023年 11月
2023年 07月
2023年 06月
2023年 05月
2023年 04月
2023年 03月
2023年 02月
2023年 01月
2022年 12月
2022年 11月
2022年 10月
2022年 09月
2022年 08月
2022年 07月
2022年 06月
2022年 05月
2022年 04月
2022年 03月
2022年 02月
2022年 01月
2021年 12月
2021年 11月
2021年 10月
2021年 09月
2021年 08月
2021年 07月
2021年 06月
2021年 05月
2021年 04月
2021年 03月
2021年 02月
2021年 01月
2020年 12月
2020年 11月
2020年 10月
2020年 09月
2020年 08月
2020年 07月
2020年 06月
2020年 05月
2020年 04月
2020年 03月
2020年 02月
2020年 01月
2019年 12月
2019年 11月
2019年 10月
2019年 09月
2019年 08月
2019年 07月
2019年 06月
2019年 05月
2019年 04月
2019年 02月
2019年 01月
2018年 12月
2018年 11月
2018年 10月
2018年 09月
2018年 08月
2018年 07月
2018年 06月
2018年 05月
2018年 04月
2018年 03月
2018年 02月
2018年 01月
2017年 12月
2017年 11月
2017年 10月
2017年 09月
2017年 08月
2017年 07月
2017年 06月
2017年 05月
2017年 04月
2017年 03月
2017年 02月
2017年 01月
2016年 12月
2016年 11月
2016年 10月
2016年 09月
2016年 08月
2016年 07月
2016年 06月
2016年 05月
2016年 04月
2016年 03月
2016年 02月
2016年 01月
2015年 12月
2015年 11月
2015年 10月
2015年 09月
2015年 08月
2015年 07月
2015年 06月
2015年 05月
2015年 04月
2015年 03月
2015年 02月
2015年 01月
2014年 12月
2014年 11月
2014年 10月
2014年 09月
2014年 08月
2014年 07月
2014年 06月
2014年 05月
2014年 04月
2014年 03月
2014年 02月
2014年 01月
2013年 12月
2013年 11月
2013年 10月
2013年 09月
2013年 08月
2013年 07月
2013年 06月
2013年 05月
2013年 04月
2013年 03月
2013年 02月
2013年 01月
2012年 12月

フォロー中のブログ

梟通信~ホンの戯言
ホクレレ2

最新のコメント

> 浅野さん だいぶ時..
by saiseidoh at 10:27
初めまして北海道の古物を..
by 浅野 at 17:11
明日ありと 思う心の 仇..
by enalitna1977 at 19:53
ありがとうございます。ご..
by 忍澤勉 at 15:45
その通りだと思います。
by 葛西典男 at 20:40
コメント書いていただき、..
by saiseidoh at 16:43
その「真実の姿」を知るた..
by 誤った認識を持つ若者の1人 at 18:03
コメントいただき、ありが..
by saiseidoh at 15:52
はじめまして。KAZUM..
by KAZUMAKI at 17:16
先日、大橋巨泉についてブ..
by プログレ at 20:12

メモ帳

最新のトラックバック

検索

ブログパーツ

最新の記事

遥か遠くの石垣島
at 2024-03-17 20:56
日々の新聞・雑誌
at 2024-03-03 18:37
読書の質・本の質
at 2024-02-23 07:37
読書日記「ブルーフィルムの哲..
at 2024-02-17 11:08
井上荒野「あちらにいる鬼」
at 2024-01-17 11:08

ファン

ブログジャンル

本・読書
北海道

画像一覧