彩生堂備忘録


店主:宮内義富、札幌在住。「本の力」「人の力」が必要な時代です。ものごとを、明治以降生まれた様々な思想や文学、社会学、医療や医学、性その他に関する学問・研究など、多面的な物差しで見ていくことの必要性も痛感します。
by saiseidoh
プロフィールを見る
画像一覧

新美南吉紀行③

d0289139_20441789.jpg
d0289139_20442852.jpg

 南吉の遺言状を見た。次のように書かれている。

 「一 愛知県安城高等女学校を退職するにつき授与さるべき退職金
  一 余が一切の貯金
  一 余の著書の印税のすべて
  一 余が蔵書並びにその他所持品一切

 右の一切はあげて余が実父多蔵の有に帰すべきものとす。以って余が生前に実父よりうけたる大恩の一部に報ぜんとするなり」

  そして、このような手紙も残された。

  「たとえ僕の肉体がほろびても君達少数の人が(いくら少数にしろ)僕のことをながく覚えていて美しいものを愛する心を育てて行ってくれるなら、僕は君達の心にいつまでも生きているのです」(戦争中、高等女学校卒業生への手紙)

 人間や世の悲しさ(哀しさ)を前面に出した童話の数々や咽頭結核により夭逝した事実から南吉には清らかなイメージだけが残るが、心の葛藤を表現し、生の人間としての感情を吐露した手紙の数々も遺されている。

 文才という才能は人並み外れてあったであろうことは確かである(「東の宮沢賢治、西の新美南吉」とも呼ばれていた)。そして、世の非情も身を以って繰り返し体験した。それによって生み出された真情に溢れた作品の数々。

 遺言状や生徒への手紙には、夢想と現実の狭間で揺れた、才能豊かな青年の無念さや人間が持つべき身近な人々への愛情が素直に表されていると思う。当方も白頭の身となり、改めて南吉の父親への感謝・温情が溢れた遺言状に共感する。

 また、私達のうちにも同じ感情が確実にあることを私は感じている。時代は移り、変化ばかりが強調される私達の日常だが、過去営々と積み上げてきた南吉のような文化遺産をスタイルやブームとしてだけではなく、その内実を深く学び取るべきだ。そのためにも読書という行為は有効であると信じたい。

 南吉を知ってから40年余り、そして愛知県半田地方の旅から20年ほどを経ているが、今も彼の作品や人生を自分なりに継承したい欲望(もちろん自分ができる事を通して、だが)にとらわれる。
                                                     
                                                   (終わり)

※巽聖歌著『新美南吉の手紙とその生涯』(英宝社、昭和37年刊)
※ホームページ underZero に新美南吉の足跡や作品その他が詳細に紹介されている。
新見南吉記念館

新美南吉の手紙とその生涯 (1962年)

巽 聖歌 / 英宝社


[PR]
by saiseidoh | 2013-03-21 20:52 | 文学・小説 | Comments(0)

外部リンク

フォロー中のブログ

ホクレレ2

最新のコメント

先日、大橋巨泉についてブ..
by プログレ at 20:12
本当にそうですね。東京に..
by saiseidoh at 20:15
乾ききった魂に、沁み込ん..
by JUNNKO at 12:17
私も同じかもしれません。..
by Takeshi at 23:24
 評論、というほどの事は..
by saiseidoh at 12:43
日経の文化欄を好むもので..
by Takeshi at 12:12
私も一度、登山で行ったこ..
by プログレ at 16:10
 コメント有難うございま..
by saiseidoh at 21:34
世の中ではびっくりするほ..
by saiseidoh at 20:20
ブログにコメント書くの初..
by きょうこ at 21:55

メモ帳

最新のトラックバック

venushack.com
from venushack.com
www.whilelim..
from www.whilelimit..
www.whilelim..
from www.whilelimit..
http://while..
from http://whileli..
http://www.v..
from http://www.val..
浮世絵の誕生・浮世絵の歴..
from dezire_photo &..
電子貸本Renta!で評..
from 最新お得情報

検索

ブログパーツ

ファン

ブログジャンル

本・読書
北海道